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2024年2月 5日 (月)

最近読んだ本『ノボさん』『すべて真夜中の~』『イメージを~』

『ノボさん』伊集院 静 講談社文庫上下巻 2016年(2013年講談社)20231121_095055

 

正岡子規の半生を描いた作品。夏目漱石との交流をも書いていますが「小説 正岡子規と夏目漱石」との副題で想像するほどには漱石に重点は置かれていません。あくまで主役は子規で、その最も親しく重要な友として漱石が登場しています。題名の「ノボさん」は子規の幼名「升(のぼる)」からきています。

小説は一校時代の、ベースボールに夢中になった子規の姿から始まりその死で終わります。疾風の如くに駆け抜けた34年間でした。「打者」「走者」「四球」など、現在も使われている野球用語の多くを翻訳創作しています。(「野球」は違うらしい)

伊集院静の筆は、隠居の手慰みだった「俳句」を文学の域の高めた功績に留まらず、ひとりの明治人、「ひと」としての正岡子規を愛情込めて描いています。読後には、その距離感はかなり縮まった感があります。また、結核菌が引き起こした脊椎カリエスでの病態も克明に描かれ、壮絶な描写に後ずさりしてしまいます。

 

 

『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子 講談社文庫 2014年(2022年第43刷/2011年講談社)20231121_095247

  

川上未映子2冊目ですが、前読の芥川賞受賞作『乳と卵』より3割増しで良かったと感じています。刷数を重ねているだけのことはあります。ま、刷数は「売れた」というだけで、必ずしも作品の質と一致するわけではありませんが。

ひとと接すること、一般社会でのコミュニケーション力に不安のある主人公、出版物の誤字脱字、間違いを探す校閲者として働いています。仕事は基本的には単独行動ですが、会社に勤める以上接する社員同士の社会関係はあります。それが上手く出来ずにストレスを抱える主人公は、仕事上の知人からの紹介を切っ掛けに会社を辞め、「フリーランス」として仕事を続けることにします。買い物など必要最小限以外ではほとんど他人と接することの無い生活が始まります。

たまに繁華街に出ても、遊び方も判らずウインドウショッピングすら気楽に楽しめない。そんな主人公がひょんなことから年上の中年男性と知り合い、恋心を抱く、そんなお話しです。

私自身、主人公ほどではありませんが世間話が苦手、普通に社会生活の送れる範囲内ではありますが、コミュニケーション力は劣る部分があります。その分共感できる範囲は広いかも知れません。結末ネタバレはしませんが、現実的に納得できる、しかも部分的には安心もできる収め方になっています。芥川賞から3年後でこの安定感、最近の作品も読んでみたくなりました。

 

 

『イメージを読む』若桑みどり ちくま学芸文庫2005年(2021年第13刷-1993年筑摩書房)20231010_091532

 

若桑みどりの著作を読むのはこれが3冊目になります。千葉大学教養部での「美術史」、4日間に渡る講義を纏めて文書化したものです。美術を専門にする学生向けでない点で判り易く、それでいて美術史の原則を外さない興味深い内容となっています。

中学生時代の歴史の授業で、「ナポレオンが生まれたからこの時代になったのでは無い、この時代だからナポレオンが生まれたのだ」と習い歴史が好きになりました。同様に、美術も時代から離れることはできません。必ずある時代・ある社会・ある文化の中で生み出されます。この本はその、芸術作品の創造された背景を探る「イコノロジー(図像解釈学)」を学ぶ美術史入門書です。

この本を読んで初めて知ったこと、ルネサンス・マニエリスム等の言葉の意味です。芸術様式の初期段階をプリミティヴ、完璧な様式を完成させた時代をルネサンス、技巧が洗練されワンパターン化してくるのがマニエリスム、と表現されているのだそうです。また、著者の書く「芸術の価値のひとつは、それがどれだけ人間にとって普遍的な真実をふくんでいるか、という点にあると思います」との言葉が印象的でした。

初めて読んだ若桑みどり著作は『クアトロ・ラガッツイ』でした。信長・秀吉の時代、九州の大名がローマに送り出した「天正少年使節」を描いた小説です。くどくどと煩わしく、なんとか読み切ったものの即座にBOOK OFF 行きとなった作品です。切っ掛けが無ければ二度と読まない作家だったでしょう。切っ掛けは通信美大(現役学生です)での参考文献に著作名があったことでした。『絵画を読む』との本でした。この本で著者が小説家では無く「学者」であることを知りました。『クワトロ~』でのくどくどしさは学者故の拘りだったのでしょう。その流れで本作も読むことになりました。芸術系では、まだ読みたい本もあります。2007年に71歳で亡くなられています。51qmppeol

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