『堀辰雄 ちくま日本文学』堀辰雄 筑摩書房 2009年(2022年第4刷)
「ちくま日本文学」文庫版全40巻の内の1冊です。堀辰雄作品は『聖家族』『美しい村』『菜穂子』他、主要作はほとんど読んでいました。50年以上も前の高校生時代のことです。映画『風立ちぬ』を機会に数冊をその時に読み返しています。ゴルフで訪れた軽井沢、通りがかりに入ったブックカフェで目に付いた本です。街中の本屋だったら買わなかったでしょう。軽井沢で堀辰雄、というのが運命めいて思わず買ってしまいました。『風立ちぬ』以外は未読の作品だったこともあります。
デビュー作『ルウベンスの戯画』から数作は、若さ故の気負いのようなものが感じられます。ただ最初に載っている『鳥料理』は『聖家族』よりも後に書かれているし、必ずしも初期作品の特徴と言うわけでも無さそう。テーマにもよるのでしょう。やはり軽井沢情景の作品が落ち着きます。乙女チックな物語として男性ファンは少ないのかも知れませんが、何故か惹かれる部分の多い作家です。嘗ての軽井沢に対する郷愁もあるのかも知れません。軽井沢もすっかり変わってしまいましたから。『風立ちぬ』はこれで、3度目か4度目の購読になります。
『絵画を読む イコノロジー入門』若桑みどり ちくま学芸文庫 2022年(1993年NHK出版)
リタイアシニアなのですが通信系で美大生やっています。現在は洋画コースなのですが、最初の2年間は芸術学コースに所属していました。学術研究はどうも身に合わず専攻変更しました。しかしこの2年間が無駄だったとは思いません。「研究」するまでの興味はないのですが、知識として持つことは有益だと思っています。芸術学授業の最初に「感性で絵画を理解することはできません」とはっきり言われました。感性は勿論大切です。しかしそれだけではあまりに大雑把になりがちに思います。「最終的には好き嫌い」というのも間違いだと思っています。「好き嫌い」は当然あります。それを超えて理解しようとする努力無くしては、それこそ時間潰しの趣味で終わってしまいます。理解することで、好き嫌いを超えてある種の感慨に至ることもあると思います。
「イコノロジー」は「図像解釈学」と訳されています。時代が新しくなるほどに、感性比率が高くなりイコノロジー比率が低くなります。新古典派以前、特に中世期の作品ではイコノロジー無しでは到底理解はできません。本書は、古典12作品に関して図像解釈したイコノロジー入門書です。多少の事前知識を持つ方には判り易い文章だと思います。
コンテンポラリーアート(現代美術)ではまた別の意味で、感性だけでは理解できかねる作品も増えています。コンセプチュアルアートのように。それはまた別の話しです。
27冊目の原田マハ『風神雷神(上)(下)』PHP文芸文庫 2022年(2019年PHP研究所)
まさにぶっ飛んだ発想です。『暗幕のゲルニカ』でも「ここまで飛躍しちゃって大丈夫?」と心配しましたが、『風神~』では心配するのもあほくさい程の破綻です。もうなんでもござれ、マハさんにすべてお任せします。(笑)
俵屋宗達は国宝指定3点、《風神雷神図屛風》は知らない人も居ないほどの超有名作です。なのに「生没年不明」という謎の多い人物です。町絵師としては異例の「法橋」の位を与えられ、皇室からの作画依頼も受けたほどの絵師でありながら、光琳が私淑するまでは注目されず、その後も明治まで低い評価に甘んじていました。故に時代での資料があまり残されておらず、研究もされていませんでした。そのことが、マハさんに思い切り過ぎるほどの創意・発想の場を与えました。「史実が判らないなら何書いてもへっちゃらじゃい!」とかでしょうか。通信美大授業で《風神雷神図屏風》レポートを書いたことがありますが、遣欧使節やカラヴァッジョとの接触など、ツユほども結び付きませんでした。
個人的には『たゆたえども沈まず』は不満でしたし失敗作と感じています。宗達と異なりゴッホは、美術史的知識の薄い方々にも幾つかのエピソードが知られるほどの有名人気画家です。それがマハ的飛躍発想を阻害したのでしょう。そのストレスはこちらで、倍々にして発散されました。ただ、坂本龍馬が司馬遼太郎の創作人物と知らずに「史実」と信じてしまっている人も多い、ので、「宗達も」とならないか少し心配。そりゃ無いか…。
単行本は滅多に買わないのですが、「マイナー本で文庫は出ないかもしれない?」との不安から珍しく買っていました。買った切り暫く放置していたら文庫本が出ました。(笑) 荒山徹は3冊目、「高麗秘帖」も文庫本が出ていた。韓国ものしか読んでいないのでマイナー作家かと勝手に思っていたのですが、柳生十兵衛なども書いている売れっ子だったみたい。知りませんでした。(笑)
”白村江の戦い”は、旧日本帝国が”不敗神話”作りに秘していた敗戦、それをどう描いたのか興味がありました。エンタメ系演出は想定外でした。やはり無理があるように思いますし、渤海国までに繋げるのは、高木彬光の義経・成吉思汗こじつけ詭弁を思い出します。他著作を見ると元々そういったエンタメ作家だったよう。「サラン 故郷忘じたく候」で本格時代作家と勝手に誤解していたようです。ま、作り物エンタメ時代劇としては面白く読みました。歴史小説ではありません。
「月光のドミナ」に続く家内蔵書です。昭和55年の文庫本初版。当時のベストセラー作家でドラマ化された作品も多かったと記憶していますが、読んだことがありませんでした。晩年ご本人が「後世私の作品は読み継がれるのだろうか?」との不安を口にしていたとも聞きますが、PC変換で名が出て決ません。「源治啓太」とかになっちゃいます。人気作家として時代に寄り添い時代を映した、それ故に時代を超えられなかった部分もあるのでしょう。「ある結婚」他7編を収録した短編集ですが、時代臭の濃い、現代人には理解し難い部分のある作品なのかもしれません。その時代を生きた私には「ああ、そんな時代だったなぁ~」との感慨もあるのですが。ただ、検索してみると「御身」「英語屋さん」「家庭の事情」など最近出版された作品もありますし、電子書籍も多数出ているようです。すべてが淘汰されてしまったわけでもなさそうです。家内本の中にあるようでしたら、淘汰を免れた作品も読んで違いを読み取ってみたいと思っています。
表紙がゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」、日本に憧れたゴッホ、桜を感じていたのでしょうか?
原田マハの誕生日が7月14日(「パリ祭」との名称は日本だけのものだとか)とは知っていましたので、誕生日に纏わるエッセイとかだと思っていました。買った時には。考えてみれば「独立記念日」は一般にはアメリカ合衆国、フランスの場合は「革命記念日」ですね。もっともフランスでは「ル・カトルズ・ジュイェ(7月14日)」と呼ぶのが一般的だそうです。
内容は連続する24編の短編、短編中にちょっとだけ登場する人物(女性)が次の作品の主人公となって物語を引き継ぎます。それぞれの物語に関連性はありません。主人公の生活も環境・生い立ちも異なります。
私の好きな風景に”赤城山南麓道路から見る前橋市の夜景”があります。山に囲まれたすそ野に広がる灯りの群れ、その小さなひとつひとつにそれぞれ生活があり人生がある。結婚式を翌日に控えて幸せの絶頂に、もしくはマリッジブルーに、新しい生命の芽生えもあるだろうし、にっちもさっちも行かず死を覚悟する絶望の中に悩む人だって居るかも知れません。もちろん、昨日と変わらぬ平凡な日常を過ごす人々も。その集合体である灯りが、私には何も語りかけず、その人生のひとつにさえ何ら関係することも覗くことも叶わない、そう考えると寂しくなる、私にとってはそんな風景です。
話が飛びましたが、原田マハの作品がそんな意図の短編集だと知った時に、その夜景を思い出したのです。興味深い設定ですしそれなりの成果はあるかも知れません。しかし前橋市の夜景には、私的には、感慨は遠く及びません。あまりに細かく多くの破片(短編)を紡ぎ過ぎたのかも知れません。個々の物語が使い捨て的にむなしく思えます。話数を半分ほどにしてより感情移入した短編にする必要があったように・・・。ただ最後の物語に複数の主人公が登場して会する場面にはほっこりしました。安心感というか、そうなって欲しかったというか、ま、都合良いご都合展開でもあるのですがね。
太田市民会館、野口五郎コンサート、昨日行ってきました。。高校生時代の家内がファンだったとか。それで4月の誕生日プレゼントはチケットにしてみました。大学生時代付き合い始めた頃、彼女は「私鉄沿線」のモデルになったという池上線沿線のアパートを借りていたけれど、特に意識してのことではなかったそうな。
太田市民会館は2017年に移転新装された2代目の市民会館です。本年BCS賞という建築賞を受賞したとか。長らく老朽化を言われながら予算の出ない足利市とは好対照、広い駐車場を持つ最新施設です。駅前の図書館といい、税収格差を感じざるを得ません。
野口五郎、アンコールはアカペラで歌ったり、マイクを置いて地声で歌ったり、さすがの声量・歌唱力でした。そうとう鍛えてますね。しかし誰も立たない、手拍子も声がけもほとんどないという(ライブじゃなくて)コンサート、久々の体験でした。学生時代のディープ・パープル以外ではラルクと林檎と森高さんしかライブ体験の無い家内、「静かだね」が感想でした。でも私達の世代では、GS嵌って追っかけしてたような人以外では、オールスタンディング未体験が大多数かも知れません。
蛇足です。家内は大学生時代の美術部の後輩、知り合って3年半経ってから付き合い始め、途中2年の遠恋期間を経て結婚、来年で40周年になります。昨年、久々に再会した聖心女子大卒の絵画仲間に「学生時代憧れてたんです!」と言われ「えっ俺に?」と思ったら「同棲に」だった。
当時上村一夫の漫画「同棲時代」が人気となり、1973年にドラマ化・映画化されました。ドラマでの主演は梶芽衣子と沢田研二、挿入歌でモップスの「たどりついたらいつも雨ふり」吉田拓郎の「旅の宿」が使われたそうな。憶えてないけど。映画版は主演が由美かおる・仲雅美、大信田礼子の歌った主題歌がヒットしました。”同棲”という言葉自体が流行し社会現象ともなりました。しかし当初の私の時代では、実際に同棲しているカップルはまだ少数で、”お堅い”聖心女子大生の周辺では遠い夢物語だったそうです。渋谷のトレンディ?大学在学中の私の周辺ではまぁ、そんなに珍しい存在ではなかったですけどね。
野口五郎の最大ヒット曲「私鉄沿線」もそう、”同棲”を主題にした作詞です。当時はそんなテーマの曲や小説・ドラマ、多かったですね。そしてほとんどというか「全部」と言っていいくらいが、悲恋、青春の切ない恋、別れ、で終わっています。ウチは当たり前のように結婚しちゃいましたけどね。来年は結婚40周年、夫婦でちょっと長い旅にでも出かけたいと思っています。
残念ながら私自身には、韓国女性との恋愛経験はありません。昨今「韓流」で身近になった韓国、恋愛話も多く聞くようになりました。以前は日本男性と韓国女性、しかも「韓国パブの女性に嵌ってしまった日本男性」的な話が多かったものですが、それが急激に、「韓国男性と日本女性」との間の恋愛話が多くなっています。韓国ドラマを切っ掛けに興味を持った方々には、一部、韓国男性に過剰な憧れを抱いてしまっているケースも見受けられます。例えば、かの”ヨン様”演じる”ミニョン”を見て「韓国男性って素敵!」とか、直線的に結論付けてしまっている場合は少々面倒です。これが日本人なら、いくらキムタクに憧れても、それが日本男性の典型とは理解しないはずです。「TVの中だけの話」「現実にはそうそう居るはずが無い」と、キムタクそのものには憧れても、日本人一般への認識には繋がりません。それがしかし韓国人となると・・・。
韓国でも日本同様、ドラマ設定での主人公は”理想形”です。裏返せば、現実社会にはあまり居そうも無い人格です。”ミニョン”も”ミンチョル”も然り、もちろん韓国的特長の一部は持っているでしょうが、総合的な性格・人格としては、一般韓国社会には”稀有な”存在であるはずです。うちの家内もビョンホニーではありますが、幸いな事にビョンホン氏に嵌る以前から直接韓国人(私の友人達)を知っていますので、タレント本人以外にまで想像を膨らます事態には至っていません。(笑)
ま、こんな韓流的付随イメージを抜きにしても、国際恋愛に誤解は付き物です。特に韓国人との間には、あまりに似通った外見・文化的共通点がありますので、自国人と同様に考えてしまってその”誤解”に気付かないケースも多いように思えます。
積極的情熱的なアプローチ、もちろん韓国男性すべてがそうではありませんが、シャイな日本男性に比べると、ストレートな愛情表現をする人は多いですね。すでに結婚していますが、私の友人のひとり、年1、2回の訪韓の度に恋愛対象が変わっていました。そしてその度に「運命の人に会いました!」と表現していました。彼にとって”運命の人”は決してひとりである必要は無いようです。(笑) 情熱的な言葉も態度も、決してその愛情の深さを表すものではありません。同じ情熱は、次の恋愛にも同じように表現されるはずです。
また度々問題になるのは、「両親への紹介」と「プロポーズ」です。韓国での恋愛、いまだに基本は「結婚を前提」です。真面目な気持ちでの交際であるなら、その”初めとして”、両親への紹介と結婚の申し込みは当然な行いでもあります。これが全く逆に、一定期間の交際を経て、恋愛が煮詰まり盛り上がった段階で行われる日本との差が、しばしば誤解の元ともなっているようです。”恋愛の始まり”として韓国男性が行った規定行動が、”恋愛の結論”として日本女性に理解されてしまう、そんな誤解ですね。韓国の親は何人もの、息子(娘)の交際相手を順次紹介される、韓国男性(女性も?)は生涯何度ものプロポーズを経験する、もちろんその度に結婚しているわけには行きません。その時の気持ちに嘘はないでしょうが、あくまでそれは恋愛過程でのその場その時の感情であり、”将来の保障・約束”では無いのです。言語同様、感情表現も「翻訳」して理解する必要があります。
恋のすれちがい―韓国人と日本人‐それぞれの愛のかたち 著者:呉 善花 以前にもご紹介した呉善花女史の本です。これも少々年月が経ち、現代の若者感覚とのズレもあるでしょうが、恋愛感情の基本形態の違い程度を理解するには役立つ本だと思います。 |
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