2023年1月17日 (火)

最近読んだ本『宇喜多の~』『秘密の~』『20世紀~』

『宇喜多の捨て嫁』木下昌輝 文春文庫 2017年(2021年第7刷)20221226_112231  

 

以前読んだ『宇喜多の楽土』の作者です。関ケ原合戦の西方主要大名でありながら何故か影の薄い宇喜多秀家、そんな興味で手に取った一冊でした。つまらなくはなかったのですが、いまひとつインパクトの薄い作品でした。普通ならそれ一冊で終え、他作まで手を伸ばさなかったかも知れません。それが何故か後を引き、直木賞候補となった『宇喜多の捨て嫁』の設定に興味を持ってしまいました。大きな期待無く買っておいた1冊です。 

作品は6篇の短編から成っていました。それぞれ主人公が異なり視線が異なり、同じ主人公の場合でも年代を変えて書かれています。別々の話しでありながら、時系列に並べられた作品で無いながら、実に巧妙に1点に繋がり纏められています。 

実の娘をも謀議の餌として使い見捨てる「捨て嫁」、梟雄:宇喜多直家の4女於葉の物語に始まり、若き日の純真な直家が、苦難の定めの中で如何にして非情な謀議にまみれた梟雄となって行くのか、先ほど終了したNHK大河での北条義時の如く、ダークサイドに堕ちる過程をリアルに描いています。やはり模範的な武士よりも「梟雄」の方が物語になり易い。直木賞受賞が成らなかったのが不思議にも感じましたが、同年の受賞作は西加奈子『サラバ!』でした。巡り合わせが悪かったですね。 

 

『秘密の花園』フランシス・ホジソン・バーネット 著 畔柳和代訳

新潮文庫 2016年(2021年第4刷)51ufvydnpkl_sx349_bo1204203200_

 

昨年4月にピカピカの1年生になった孫娘、その入学祝いに本を贈りました。『空飛ぶ教室』と迷った末に『秘密の花園』を選びました。小学生向けに判り易く書かれた本です。訳者は判りませんが、私が小学生低学年時に読んだのもそんなものだったのでしょう。2学年上の姉の本でした。61rl6rctql_sx356_bo1204203200_  

孫娘に渡す前に自身でも読んでみたのですが、そうなると本来の本家本物も読みたくなります。元々児童文学作品ではあるのですが、バーネットの著した本来の姿、読んで良かったと思いました。やはり表現の幅が、物語の厚みが異なります。型通りに読者の望む方向に進む模範的なハッピーエンド物語ですが、その単純さに心洗われます。成長期に心はぐくむには最適な作品だと思いました。ひととき、純真な少年に戻りました。(笑) 

 

『20世紀美術』宇佐美圭司 岩波新書 1994年第1刷20221226_112318

 

廃版になっているのでネットで古書で購入しました。40数年前の大学美術部時代に、荒川修作と並んで憧れた作家です。当時はアメリカの「スーパーリアリズム」やサム・フランシス、ヴィクトル・ヴァザルリなどが紹介され、セゾン美術館(西武美術館)の活動もあって、一般にも現代美術の注目された時代でした。最近では、東京大学生協食堂での壁画でのマイナー話題で名が挙げられました。哀しいことです。

Johns_diner_by_john_baeder Img_20200904_221131高階秀爾の『20世紀美術』を読んだ関係で、同じ書名の、しかも宇佐美圭司著作と言うことで興味を覚えました。著名な美術評論家の著作と現代美術作家の同じテーマでの著作、文も内容も「同じテーマ」とも思えないほどの違いがありました。文章としては、難しいながらも判り易い(矛盾してる?)高階秀爾、2度読みすると理解度は高まります。一方宇佐美圭司版は、観念的な面もあり、2度読みはまだしていないのですが、判り易い面と難解な面との差が大きい。難解部分は、2度読みしても理解し難い気がします。反面、実作者ならではの気概を感じる、現代美術の未来を芯から案じる心根が見えて共感できます。20220105_165736_20230116233001   

あとがきにある「第Ⅲ章を構成したアメリカ現代美術を代表する画家たちへの批判的言及は、画家たちの知名度がひくく、わかりにくいところがあるかもしれない。」とあります。モーリス・ルイスやバーネット・ニューマン等です。1994年当時では「知名度がひくく」だったのですね。現代では、岩波新書で美術書を読む方々には知名度の高い作家です。時代の流れを感じます。また、「批判的言及」の提示は実作作家ならではの言及です。評論家では「分析」重点ですので。

Image_20210704_0001宇佐美圭司は2012年、食道がんで他界しました。「短期間のうちにこれほど表現方法や内容の激変した時代は、歴史的にも類例を見ないだろう。」との時代、この10年でも美術界は更に不安に迷走していると感じています。宇佐美圭司ならどのように言及したのだろう? 

がん発症を知り、宇佐美圭司は「最後の個展」を三島市にあった「大岡信ことば館」に依頼しました。スケジュールを変更して依頼を受けた当時の館長は、今、私の地元足利市でカフェギャラリーを営んでいます。

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