最近読んだ本『風に舞い~』『モンテレッ~』『松野大社展』
風に舞いあがるビニールシート』森 絵都 文春文庫 2009年(2021年第14刷・2006年文藝春秋社)
初めて読む作家、だと思って読み始めたのですが、3年前に『みかづき』という作品を読んでいました。すっかり忘れていました。
6作の短編から成る1冊です。第135回直木賞受賞作。スタートは児童文学で、本作は一般文芸に進んだ初期の作品になるらしい。そのせいかどうかは知りませんが、6作それぞれ色合いが異なります。別々に読んだら同じ作家の作品とは思わなかったかも知れません。解説の藤田香織も「とても驚いたのが収められている6つの物語そのものの質感の違い」と、同じように感じたようです。
1作目の『器を探して』はイマドキ感のある作品です。『ジェネレーションX』は都合の良過ぎるストーリー展開ですが小説らしい楽しさはある。表題作『風に舞いあがるビニールシート』は世界の現実を知らしめるシビアな作品。直木賞と芥川賞の差異の小さくなっている昨今ですが、その両側を行き来する作品集に感じました。
『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子 文春文庫 2021年(2018年方丈社)
本屋で見て気になってたまたま購入した本です。嘗てイタリアに「本の行商」との職種のあったこと、それが都会ではなくトスカーナの山奥の小さな村だったこと、興味をそそられました。
外国人として初めての「露天商賞」受賞作品です。「イタリアの本屋大賞」との説明に一瞬躊躇しました。日本での本屋大賞受賞作・候補作はまず買いません。本を娯楽として考えていませんので、「本屋大賞」と聞くと娯楽性重視の本と捉えてしまいます。誤解かも知れませんが。同様に映画化・ドラマ化との一文も購入を避ける要因となっています。
「露天商賞・金の籠賞」との賞、元々賞の根源が異なるのか?それとも賞の発祥に直接関わるテーマなので特別に選ばれたのか?判りませんが、少なくとも日本の「本屋大賞」には絶対に選ばれないであろう、娯楽性の少ない作品でした。
私が本屋の本棚でたまたま選んだ時のイメージともかなり異なりました。エッセイ的、緩やかでロマンのある、読み易く楽しい作品をイメージしていました。実際にはかなり生真面目なノンフィクションです。山奥にある交通不便な寒村を何度も訪れ、周辺の街・村、本屋行商に関連する本屋を訪ねたり、研究的調査を重ねた上で書かれています。予想した気楽なエッセイではありませんでしたが、反面読み応えのある作品ではありました。
『松野大社展』みやこの西の守護神 京都府京都文化博物館 2024年
現在開催されている(6月23日まで)展示会の図録です。図録を端から端まで読んだのはおそらく初めてです。ほとんどは絵画展ですので、通常は作品の写真を眺めて所々拾い読みするだけです。高価な図録を勿体ないと、たまには思います。( ´艸`)
それでも絵の展示ですとそれなりの満足感も得られます。しかし今回は展示品の大部分は「書」で、それも美的書道ではなく城湯としての「書」です。眺めていても何も判りません。読むことも出来ませんし読んでも意味を解せません。。巻末の「作品解説」を読んでようやくその1部を理解できる程度です。
何故そんな展示を観た、図録を買ったのかと言えば、実は所属する通信美大での講義が絡んでいるせいです。来週末に京都で講義を受け、後日リポートを転出しなければなりません。
読んでいて眠くなるページも多い図録ですが、興味深い面も無いでもありません。神社の歴史・行事・祭事仕様の他に、多いのは陳情文的な文章です。京都でも高位に位置する神社で荘園から上がる年貢で祭祀を執り行いますが、その年貢が騒乱や時代変遷で届かなくなり、その解決を時の権力者に願う上訴文です。訴願先は時代で変わります。朝廷から鎌倉幕府・足利幕府へ、そして信長・秀吉に。その効果も時代で変わり、武士の世には多くの荘園が有名無実となります。そういった時代変遷を物語る文章の展示会でした。
NHK大河ドラマファンには懐かしい名も出てきました。「梶原景時」です。ドラマでは中村獅童が演じていました。丹波国雀部荘での荘園代官を務めていた景時、その失脚後の新たな地頭で未払いが続いたそうです。ドラマとは言え知った名が登場すると一挙に興味が深まりますね。
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